商家の矜持
ウルラの家系は御三家ジュナイパー種の本筋から離れた血筋、所謂分家と言われる立場にある。
祖先が商家として成り上がり、本家に負けないように力をつけ、その最先端に立つのがウルラという女性だ。彼女は幼少期に誘拐されかけた事がある。それを救ってくれたのがサヴァという少年であった。ウルラはお礼を言いたくてサヴァを探し続けたが一向に見つかる気配はなかった。…とは言うが、実際は父親がサヴァの捜索を無理矢理断念させるように仕向けているが為に、ウルラはサヴァを見つけることが出来ない。サヴァは本家の者でウルラは分家の者。何故無能の塊である本家に頭を下げなければならないのか、と憤慨した父親がサヴァもとい本家に関わる情報を一切遮断したのである。
日に日に感謝の気持ちが強まる彼女の心に、恋心が芽生えるのは時間の問題だった。そしてその恋心があらゆる悲劇を生むことになる。
鴉との出会い
より才能ある子供を産む為にユリウスという男は婿入りをさせられた。より優れた遺伝子を、その子種のみが親の目的であり後はどうでも良かった。ウルラも困惑した。お見合いも無しにいきなり婚約させられたのだから。しかし彼はとても優しく、貧困層出身であっても勉学を怠ることはなくウルラの隣にいても恥ずかしくないように努力をしていた。ウルラ自身もそれは分かっていた…が、やはり幼い頃から根付いた恋心がとても大きく、ユリウスという存在に尊敬こそはするが好きになることはなかった。やはり、どうしても彼女の心は窮地を救ってくれた少年に傾きすぎていたのである。
どんな想いにも答えることは出来ない…そんな日々が続いていたある日、ウルラはユリウスが一人で出かけている所を見かける。純粋に何をしているのだろう、と興味を持ちこっそり後をついていった。しかしふ、と見えた彼の表情にウルラの背筋が凍った。
無。表現するとすれば無だ。いつも見る彼の表情はそこにはなく、虚無が顔に張り付いているような雰囲気だ。違う一面を垣間見てしまったウルラはその日を境にユリウスへの対応がぎこちなくなっていく。しかし相手はいつでも微笑んでいた。そこに恐怖を感じた。あの人は、何を考えているのだろう。怖い。段々と恐怖心がウルラを支配していく。不安という感情に押しつぶされそうになった彼女は、遂には両親に相談をしてしまったのである。それが悲劇の幕開けでもあった。
決意の翼
屋敷火災事件から数ヶ月。ウルラは窮地を救ってくれたサヴァに保護されて生活をしていた。運命が引き合わせたのだと確信し、過去から持ち続けた気持ちを告白する…のだが、サヴァは運命の相手は私では無いと断った。どうして?とウルラは聞くと、「婚約者がいたって話をしていたじゃないか、そちらと結ばれるのが道理なのでは?」サヴァは答える。身の上話や日常の話などを話しているうちに婚約者ユリウスの話もしていた事もサヴァはしっかりと覚えていたのである。ウルラは、屋敷の者全てが死んでしまったと聞いている、だから婚約者であるユリウスも死んだと考えていた。だから残念だったが婚約者が居たからってそれは望んだ婚約者では無かったし、ずっと想いを秘めていた事を伝えては駄目なの?と逆に質問をした。 それについてサヴァは「とんでもない傲慢さを持ち合わせているんだね、失望したよ。」と突き放した。望むにしろ望まないにしろ、婚約者から受けたであろう想いをあなたは否定するんだね。そんな人を好きになるのはとても難しい話だ…と。サヴァはウルラを見限った瞬間であり、ウルラの苦悩の日々が始まった瞬間でもあった。
暫くして、雪原で死んだ筈のユリウスが目撃されたという情報を耳にする。噂であれ直接この目でユリウスを確認して、もし本人であれば謝罪したい。この数ヶ月間考えてきた気持ちを伝えたい。だから一緒に来て欲しい…と頭を下げてウルラはサヴァにお願いする。サヴァは傭兵として依頼を受け、”一切の私情は挟まない。気が済んだら帰るよ。”と…ため息をつきつつ了承したのだった。